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・ VOL-Netについて〜活動の記録〜
■実施日 2012年6月16日(土)午後2時〜4時半
■場所 女性就業支援センター
■テーマ 症例から学ぶ 転移・再発乳がん治療
■講師 横浜労災病院腫瘍内科・緩和支持療法科部長  有岡 仁 先生
関東でも梅雨の長雨が始まった6月16日、田町の女性就業支援センターにて、横浜労災病院の腫瘍内科医、有岡仁先生を講師にお迎えして「症例から学ぶ 転移・再発乳がん治療」をテーマに勉強会を開催しました。

有岡先生の講演は、乳がんの薬物療法の概略から始まりました。ホルモン治療薬や抗がん剤、それにハーセプチンなどの抗HER2作用をもつ分子標的薬剤について、作用機序による分類や薬効の説明です。

次に「薬物療法の評価方法」についての説明がありました。
がん薬物療法の主な効果指標として使われる「奏効率」は腫瘍の大きさに一定以上の縮小が見られた患者の割合を表します。
他にも「無増悪生存(PFS)」は腫瘍が増悪せずに安定している期間を表します。「全生存率(OS)」「生存期間中央値(MST)」なども薬物治療の評価によく使われています。
また、化学療法を行うとき、以前は「年齢」も大きな要素として考慮されていましたが、現在薬物療法を行う際に大切なことは「患者さんの見た目の元気さ(日常生活、社会的活動を行う上で制限なく過ごせるか)」と「臓器機能が正常であるか」ということだそうです。

そして、いよいよ本題に突入し、いくつかのケーススタディを見ながら薬物選択について掘り下げていきました。今回取り上げられたのはいずれも再発・転移症例です。
初発治療と比べて、再発治療の場合は患者さんによって異なるものだと思ってしまいがちですが、再発治療の場合であっても大まかな薬物選択のルールがあります。
「ホルモン感受性があるかどうか」「閉経前か閉経後か」「HER2発現は陽性か陰性か」「生命を脅かす転移であるか」といったことです。

ホルモン感受性があり、生命を脅かす転移がない場合には、ホルモン療法から開始されます。補助療法が終了してから1年以上経過していた場合は補助療法で使用した薬剤を再度使うことができます。閉経後の場合にはアロマターゼ阻害剤が第一選択となります。閉経前ではLH-RHアゴニスト+タモキシフェンが第一選択です。新しく認可されたフルベストラント(商品名フェソロデックス)は再発・転移症例で第2世代の薬として使われています。

トラスツズマブ(ハーセプチン)は単剤で使うより抗がん剤併用の方が治療成績が良好です。パクリタキセル(タキソール)やビノレルビン(ナベルビン)と合わせることが多いです。ハーセプチン抵抗性の症例に対してはラパチニブ(タイケルブ)を使いますが、こちらも単剤ではなく抗がん剤(ほとんどカペシタビン(ゼローダ)が使われる)併用となります。
また、HER2陽性、ホルモン感受性ありで生命を脅かす転移がなければ、まずはホルモン療法から始めることも多いです。

化学療法が中心となる場合、薬剤選択に関しては、再発治療であってもアンスラサイクリン系(ドキソルビシン、エピルビシンなど)の薬剤の方が奏功率が高いです。次にタキサン系(パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテール)など)、ナベルビン、ゼローダ、ゲムシタビン(ジェムザール)と続きます。
単剤より多剤併用の方が腫瘍の縮小や進行までの期間を延ばすことができるが、生命予後には寄与しないという厳しい現実もあるので、QOLの向上も合わせて、抗がん剤治療は単剤の治療を順次行うことが推奨されています。
これまで骨転移治療薬はビスフォスフォネート(ゾメタ)が中心でしたが、新しく認可されたデノスマブ(ランマーク)はゾメタとは異なる作用機序で、骨折などの骨関連イベントを減少させる効果がゾメタより高いので、今後の選択が変わってくるものと思われます。他にも、新しく認可されたmade in KANAGAWAのエリブリン(ハラヴェン)の話題など、薬物療法全体におよぶ中味の濃い講演でした。

休憩時間を挟んだ第二部では、質疑応答の時間をたっぷり取り、参加者と先生との活発なやり取りが行われました。個々の症状や治療の話に落としこむことで、理解も一層進んだのではないかと思います。

再発・転移症例に対する薬物療法の話題でしたので、時には重い現実を感じてしまうこともありましたが、まさに乳がん治療は日進月歩で、筆者が手術を受けた当時に比べてはるかに薬剤選択の幅が広がっており、QOLも向上しているように思います。
また、再発を早期に見つけることに意味はあるのかと言う問いに対しては、これまでは早く見つけても症状が出てから見つけても生命予後に変わりはないと言われてきましたが、薬物療法が大きく進歩しているので、果たして本当にそうなのか再び研究が行われる予定です。
この病気とともに生きる多くの人々にとって、乳がん治療には多彩な薬剤選択があることが希望となり、最新の臨床試験の成果が早く反映されて、その希望の光がいっそう大きくなることを願ってやみません。

勉強会後は洋風居酒屋さんにて懇親会を行いました。イタリアン中心の無国籍料理にお酒もすすんで、免疫力アップの楽しい時間となりました。

<参加者の方々のアンケートから>
・限られた時間の中で、症例をあげてのお話は、とても分かりやすかったです。ありがとうございました。(患者本人・術後13年)
・再発・転移後の治療についてはあまり情報もなく、主治医からもあまり納得のいく説明を受けることもできず、非常に不安でした。今日のお話はたいへんシビアではありましたが、たいへん勉強になりました。これからもこういう会に参加して勉強していきたいと思います。(患者本人・術後7か月)
・とても勉強になりました。患者のことを考えてくださるいい先生ですね。主治医が治療方法に迷うのも、情報が複雑だからですね。自分でも最新情報を得ないといけないと思いました。(患者本人・診断後2年)

<講師の有岡仁先生から>
6月16日(土)のVOL-Net勉強会で、転移・再発乳がんの薬物治療について講演する機会をいただきました。このテーマでは参加者が少ないかなと心配していましたが、当日は雨天にもかかわらず多くの方にご参加いただき感激しました。医師が根拠を持って転移・再発乳がんの薬物治療を行っていることを、ブラックボックス(=医師の頭)の中をのぞくことで理解していただけるよう、実際の症例を元に解説しました。患者さんとわれわれ医療従事者が協力して治療を行っていくためのお手伝いになれば、大変うれしく思います。スタッフの方々を始め、熱心に聴講してくださった出席者の皆さんにお礼申し上げます。

== 講師ご紹介 ==
 有岡 仁(ありおか ひとし)先生
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昭和 60年 3月 札幌医科大学医学部卒業
昭和 60年 6月 国立国際医療センター内科研修医
昭和 62年 6月 同センター呼吸器科レジデント
平成 4年 6月 国立がん研究センター中央病院がん専門修練医
平成 6年 6月 同センター研究所リサーチレジデント
平成 9年 4月 帝京大学医学部内科学講座助手
平成 12年 7月 横浜労災病院内科副部長
平成 12年 10月 同院腫瘍内科副部長
平成16年 12月 同院腫瘍内科部長
平成23年 4月 同院腫瘍センター長兼任
平成24年 4月 同院緩和支持療法科部長兼任
【学位・資格・免許】医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医
【所属学会】日本内科学会(総合内科専門医)、日本緩和医療学会(暫定指導医)、日本臨床腫瘍学会(評議員、専門医、指導医)、米国内科学会 (ACP) 、米国臨床腫瘍学会 (ASCO)
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〜有岡先生からのメッセージ〜
 転移・再発乳がんの治療は薬物療法が中心となりますが、術前や術後の治療と異なり、病気の状況、患者さんの体調や合併症、過去の乳がん治療の内容などによって、一人ひとりの患者さんに最適な治療方針を決める必要があります。今回は薬物療法の実例を示して、転移・再発乳がんに対してどのように治療を選択しているのかお話いたします。

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